職人的アーティスト「いきものがかり」について
昨日、NHKでやっていた「SONGS」に3人組のアコースティックグループ、いきものがかりが出演していました。
筆者は彼らを長いこと追いかけているのですが、番組を見ていて、「なぜ気になっていたのか」にようやく答えが出ました。
以下では、そのことについて書いていきます。
ドラマ主題歌の鏡、18thシングル「ありがとう」
番組は、彼らのヒットシングルをスタジオ収録したものを流しながら、あいだにドキュメンタリーを挟み込む構成になっていたのですが、その中で披露された18枚目のシングル「ありがとう」の出だし(サビ)に、こんな歌詞があります。
”ありがとう”って伝えたくて
あなたを見つめるけど
繋がれた右手は
誰よりも優しく
ほら この声を受け止めている♪
「ありがとう」 いきものがかり
http://www.youtube.com/watch?v=39IfYtnYOeU&feature=related
(※【注意】著作権管理が厳しいらしく、タイトルが偽装してあります)
この曲はNHKの朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の主題歌となっており、「右手」の部分には特別な意味が込められています。
このドラマは漫画家の水木しげるの妻が、ふたりの人生を彼女の視点から描いたもので、主題歌が伝えるメッセージは、「ことばではなく行動で想いを伝える」という、「日本人的なコミュニケーションの大切さ」です。
水木は戦争で「左手」を失っていますが、これは彼ら夫婦にとって、「繋ぐことのできる手」が「右手」しかないことを意味しています。
初音ミクの代表曲「ワールドイズマイン」が、『右手がお留守なのを/なんとかして♪』と歌い、槇原敬之の「もう恋なんてしない」が、『いつもよりながめがいい/左に少し/とまどっているよ♪』と歌うように、恋人(配偶者)というのは、いつも「片側」にいるものです。
しかし、水木には「右手」しかありませんから、(象徴的な意味で)次のようなことは起こりえません。
――「片方の手」は配偶者とつなぎ、「もう片方の手」は愛人とつなぐ。(不倫)
この曲がうたっているのは、「絶対にほどけない夫婦のキズナ」なのです。
そういった切実さや安らぎといったものを、「繋がれた右手」のたった一言で表現してしまい、おまけに、それ自体がありふれた表現でもあるという、この作詞家の職人芸(=誰にでも分かる表現で、誰にもできない表現をする――)は感動的です。
「ありがとう」はドラマ主題歌として、歴代最高傑作の1つに数えられるでしょう。
作詞家:水野良樹について
この曲の作詞をしているのはメンバーの水野良樹ですが、筆者は以前から、彼の作詞家としての才能には注目していました。
例えば、3rdシングルの「夏空グラフィティ」には、こんな歌詞があります。
タイムマシンの針を壊して
永遠の夏を
手に入れたんだ♪
おおきく振りかぶってop【いきものがかり=夏空グラフィティ】
http://www.youtube.com/watch?v=hdGziy-ClXk
(※1番だけ。これしかありませんでした)
これはよくある『終わらない夏休み』モチーフですが、押井守の映画「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」では、批評的に描かれているものです。
「うる星2」の公開は84年ですから、07年の「夏空」がその批評を(――意図的なものかどうかは別として――)踏まえていないわけがありません。
歌詞はこのように続きます。
神様の秘密のカバンから
夏だけ盗んで
ふたりでならべよう♪
先ほどの歌詞は1番のAメロで、こちらは2番のBメロです。
1番でおこなった『夏への自閉』というか、ハインラインのSF小説「夏への扉」の、そのドアについている鍵(=タイムマシンの針)の破壊が、ここではより自覚的に徹底されていることが分かります。
批評的に、あるいは批判的に見られたとしても、それを止める気など毛頭ないのだという、ここには「若さゆえの頑なな意思」が感じ取れます。
言い換えるなら、「うる星2」以降に、『終わらない夏休み』モチーフを続けるものとしての、その決意のようなものが描かれているのです。
さらに、水野は2番のサビで、ボーカルの吉岡聖恵にこう歌わせます。
はじけた真夏のトキメキのなかで
太陽逃げ出すまで遊んでいたいよ♪
夏休みを終わらせないでいるのは、空に輝き続けている太陽であり、その太陽の管理の下でぬくぬくとぬるま湯に浸かっていることを批判したのが押井でした。
そして、押井と同じか、あるいは類似した批判をするものは、「その管理下から出ろ!」と言うわけですが、水野はそうではなく、「太陽のほうこそ出て行け!」と訴えるのです。
この文脈の徹底、そしてイメージのアクロバット。
筆者は彼らの話題になったデビューシングル「SAKURA」に対して、あまり興味を示さなかったのですが、この3rdを聴いたとき、グループに可能性を感じたのでした。
以降、ずっと追い続けて、そして18thの「ありがとう」で見つけた、先ほどの職人芸。
「夏空」のテクニックは荒削りですが、若さに溢れたエネルギーを感じました。
そして「ありがとう」では洗練され、職人的なセンスを感じることができました。
水野は作詞だけでなく、全シングル(A面)の作曲も行いますが、この「SONGS」という番組では、彼とグループの、確かな成長と芸風のひろさを確認することができました。
筆者がいきものがかりを追いかけていたのは、このためだったのだと思います。
夏空グラフィティ いきものがかり 歌詞情報 goo音楽
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND54679/index.html
ありがとう いきものがかり 歌詞情報 goo音楽
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND92968/index.html