ウェブはKYと外人のもの −ネットユーザーはなぜリア充を毛嫌いするか−
「ウェブはバカと暇人のもの」(中川淳一郎著)によると、ウェブニュースで取り上げて好評なのは、具体的な数字がある商品・情報だといいます。(p172)
同書でとりあげているのは、通常より2倍大きいカール、通常より1.5倍辛いハバネロで、まぁ、シャア専用はなんでも通常の3倍の能力を発揮するというように、イメージが浮かび易いからなのでしょうね。
言い換えればバージョンちがいということで、「あの大ヒット商品の色違いが登場」みたいな感じです。
これは先入観を利用したものと言えるでしょう。
本音と裏腹なことばたち
この先入観というのはクセ者で、人それぞれちがうことがあります。
テレビのバラエティではここ20年ほど熱湯風呂という道具が使われていて、これは45〜50度もある湯に落とされることでリアクションによる笑いを取るため、あるいは長く入っていることが困難のなのでガマンくらべをするときに使われます。
この代表選手がダチョウ倶楽部の上島竜兵で、彼はふんどし一丁に手ぬぐいをかぶり、バスタブにまたがるという状態から、一言「押すなよ」と釘をさすのが定番です。
実際のところ、これは「押せ」という合図であり、入りたくなかったのに入ってしまったというハプニング感を演出するためのものです。
つまり、
「押すな」=「押せ」という意味
ことばが本音と裏腹になっているわけですが、似たようなケースはほかにもあります。
ツン美は弁当を片手で突き出し、肩を怒らせながら言った。
「…べ、べつにあんたのために作ったんじゃないからね!?」
「お前の弁当がそんなに美味いわけがない」さる文庫。
これは「多感な年ごろの少女が、異性を好きだという感情をごまかそうとしている」(「言い訳Maybe」byAKB48)わけですが、ジャンルでいうと前者=テレビバラエティ、後者=アニメなどオタクコンテンツとなります。
では、これはどうでしょう。
「適」している(ポジティブ)+「当」たっている(ポジティブ)=「適当(テキトー)」(ネガティブ)
これも字面と意味が異なっていることばですが、ジャンル分けすると日本語の問題です。
よって外国人には意味不明かもしれませんね。
日本のネットユーザーは外人みたいなもの
よくよく考えて見れば、テレビもドラマならともかくバラエティ=お笑いというのはかなりローカルなもので、その証拠にハリウッドの大ヒットコメディ映画は日本で流行りません。(例:「アメリカンパイ」)
またアニメも世界では「ジャパニメーション」と言う必要はなく、「アニメ」といえば日本産だと通じる(アニメ全般はアニメーションと言う)ように、いずれも日本的な感性に彩られています。
私たち日本人は、かように複雑な理解を何気なくすることができるのですが、ネットでは事情がちがいます。
もし2ちゃんねるなどに、
54 :ねぇ察知して。。。:2010/05/23(日) 12:47:26 1D:dOnkAn
押すな
と書いたら、そのまま「押すな」という意味になります。
これは発話者=書き手の文脈や状況が分からないために起こることです。
いわゆるメディアの匿名性が高いというやつですね。
本来、テレビでは、それがバラエティであるという文脈や、意味もなく熱湯風呂が置いてある、なぜか進んで裸になっているといった状況によって、「押すな」と発話する者がじつは押されたいのだと分かるわけです。
これがネットにはないため、そこでは解釈がシンプルになってしまうわけです。
ネットというのは、こうしたことに疎いひとが集まりやすい場所であり、また長居することで鈍感になっていく場所だといえます。
筆者の知る限り、先のような、ことばの意味が多層的な文化を持っている国はほかにないのであり、ここからネットユーザーって外人みたいだよねと言えるわけです。
お互いさま?
冒頭の「ウェブニュースでは具体的な数字がないとアクセス数を稼げない」というのも、ネットユーザーには抽象を理解する力が足りないと言い換えることができます。
コミュニケーションにおける抽象とは空気ですから、ネットユーザーはKYだと言うこともでき、学校のクラスや職場で空気が読めないからリア充になれないとすら言えます。
むろん逆にいえば、テレビユーザーは具体を軽視する傾向にあると言え、彼らは空気読みを重視しすぎる嫌いがあると言えます。
具体を理解することを重視するネットユーザーからすれば、彼ら抽象にしか興味がないテレビ視聴者=リア充は思想が真逆なわけですから、そりゃ敵に見えて当然なわけです。
とはいえ、なにかと対比されてしまうネットとテレビ、ないし、それぞれのユーザーですが、実際のところ、お互いさまといった感じでしょうか。
タイトルのわりに無難なオチでしたね。