久住小春論(2)「おはスタ」の関係
いま現在、小春にとって唯一のレギュラーであり、「きら☆レボ」における声優としての仕事、それを除いた実写の仕事、かつアウェーでもあるソロの仕事は、その99%が「おはスタ」への出演です。
ましてや「きら☆レボ」と「おはスタ」は連動しており、声を当てていたキャラを実写版として演じていたのも同番組でしたし、そもそも小春の仕事のソロの99%が同局、テレビ東京に集中しています。
これは彼女のホームであるモーニング娘。が出身した「ASAYAN」や、同グループのホームであった「ハロー!モーニング。」および「ハロモニ@」なども同局であったことを考えると、なおのこと深いつながりがあるといえ、小春にとって、その象徴が「おはスタ」だというわけです。
いわば、小春は同番組をベースとしてソロ活動をしてきたとも言えるわけですが、その「おはスタ」の顔として、すっかり定着したMC”山ちゃん”こと山寺宏一は、俳優やラジオDJなどもこなすマルチタレントです。
彼の本業は声優で、じつはテレビにおける彼の代表作である「おはスタ」は、そのスタートのきっかけとなったのが、この声優としての仕事でした。
wikipediaの彼の項目には、95年ごろ(?)のこととして、次のように書かれています。
●タレント声優との遺恨
『トイ・ストーリー』の日本語版でウッディ役が決まり、吹き替え作業がすべて終了していたが、「無名な声優より有名人を使った方が話題になる」との上の判断により公開直前に唐沢寿明に配役が変わった。このことで山寺は「だったら知名度を上げてやろう」と奮起し、活動の幅を広げていったという。
この後に彼がはじめた番組こそが「おはスタ」であり、”奮起”の結果、大成功を収めたといえるでしょう。
また同項目には、
●『おはスタ』での逸話
番組の司会役が決定したことを受けて、鼻の横にあった疣(いぼ)を切除している。
とあるように、彼はかなり意気込んでいたものと思われます。
声優というのは通常、顔出しをしない職業ですから、彼の行動は確かにテレビを意識したものでしょうが、当時すでに、彼は声優・ラジオDJとしての人気を獲得していました。
逆にいえば、これは声優業界と一般のショウビズ業界とのあいだに、それぐらい大きな壁があったことを偲ばせる話です。
よって事態は、これだけでは済みません。
続いて同項目には、同じ「トイ・ストーリー」の話題として、
この件についてディズニー側からの謝罪を受け容れたが不満は残っており、自身がDJを務めるラジオ番組では番組中しばらくブツブツと小声で不満を漏らしており、小堺との舞台でも「おっはー」が「盗られた」ことと共に不満としてぶちまけていた。
とあります。
「おっはー」は同番組発の挨拶であり、これについて同項目は、
当時番組共演者であったよゐこによると、番組挨拶である「おーはー」が香取慎吾によって「おっはー」として新語・流行語大賞を受賞したことについて愚痴をこぼしていた、とのことである。2007年の小堺との舞台公演では、「流行語大賞を取ったのに挨拶にも来なかった」とこぼしていた(同公演はフジテレビ主催である)。
としています。
また「トイ・ストーリー」におけるウッディの相棒であり、映画のもう1人の主役でもあるバズ・ライトイヤーも、もともとは声優の玄田哲章が演じる予定で、同じ理由で所ジョージに変更されたという経緯もありますから、声優業界が、日本の芸能システムの常識や慣例が働かない、エアポケットのような位置にあることを、これらは示しています。
いわば、テレビを中心とした一般のショウビジネスの世界があったとき、それと思惑において一致するわけではない声優業界があり、このズレこそが”エアポケット”なのですが、これを形成する両極のようなもののうち、声優業界の側に位置するテレビのマイノリティとして「おはスタ」(テレビ東京的なもの?)があるということなのでしょう。
このある意味で不運なポジションに、山寺宏一という男はいるのであって、彼が身辺に漏らしていたさまざまな不満が「声優業」と「おはスタ」に関わっているというのは、むべなるかなということなのです。
なぜ和製アニメは世界的に流行るか?
”声優業界と一般のショウビジネス業界とのズレ”といえば、そのシステムのちがいも見逃せません。
日本でオーディションといえば”芸能事務所に所属するためのもの”となり、おそらく世界のスタンダード――ハリウッドスタイルといえば、日本では通りがいいでしょうか――になっている”ドラマや映画などの、特定の役を得るためのもの”という解釈は、日本の芸能界には絶無といっていいはずです。
いわば日本の俳優は仕事が入るのを待っているだけで、海外の俳優は自分から仕事を取りにいくのですが、声優業界こそ、このハリウッドスタイルのオーディションを採用している、日本で数少ない業界です。
そのためか、日本のテレビやドラマが世界的にヒットしたということは極東アジアや、中東地方での「おしん」など局部的なものに限られますが、おなじ日本のアニメや漫画は国境や文化を問わずに受け入れられています。
こうしたちがい――「実写=テレビマジョリティ」と「アニメ=テレビマイノリティ」のズレ――の一環としてあるのが、先の「トイ・ストーリー」事件なのでしょう。
山寺はやはり、日米の――あるいは日本に内在されている日本的なもの・非日本的なものという2つの――芸能システムのはざまで悩んでいたといえます。
日本のアイドルグループが縮図するのは日本か?
思い返すに、小春が受けたと判明している唯一のオーディションは「モーニング娘。オーディション2005」ですが、これへの合格は「アップフロントエージェンシー」という芸能事務所への所属という、きわめて日本に一般的なオーディション的状況の一例を生むと同時に、「ハロー!プロジェクト」および「モーニング娘。」への所属という、ほかにあまり例のない状況をも生み出すものでした。
アイドルグループというのは、全員で1人の主人公の気持ちを歌う*1わけですから、そこへの加入を目指すオーディションは”集団に所属するためのもの”という日本的な解釈と、”個として立つことを目指すもの”という非日本的な解釈との中間に位置する性質があるといえます。*2
この点で――つまり日本の芸能システムのエアポケットに立つものとして、山寺と小春(≒モーニング娘。のメンバー)には似たような境遇があると言え、だから両者は「声優」「おはスタ」という点でつながったのだと思われます。*3
小題に答えると、その答えはNOだといえ、日本のアイドルグループが縮図するのは、真に土着的なものというより、より非日本的要素を重視した文脈でこそあるといえるでしょう。
*1:この点、つまりグループ=一個人と見なすアイドル的状況においては、メンバーが他のメンバーを”友人”と見なし、友情をテーマにした歌をうたうのはムリがありますが、これをハロプロは払拭しました。ハロプロの各グループは、”ハロプロ>自ら”という緩やかなつながりを保つことで、”友人”を”ほかのグループ(――例えば℃‐uteにとってのBerryz工房)”と見なすことで、”友情のうた”を歌えるようになったはじめての女性アイドルグループなのです。
*2:似たような例としては、ジャニーズのオーディション、あるいは吉本興業の養成学校NSCへの入学などがあります。
*3:だから筆者は「きらりん☆レボリューション」の3rdシーズンMilkyWay編を評価します。なぜなら、これは3DCGによって作られており、実写とアニメの仲立ちをするものだからです。